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「理念を言語化する」とは、実際に何をすることか

執筆者の写真: 松原朋子
松原朋子
9月20日
読了時間: 5分

更新日:9月20日

ノートとペン

理念の言語化を依頼しようとする経営者の多くが、それを「かっこいい一文をつくる作業」だと考えています。

それは少し違います。

理念の言語化には、二つの作業があります。

一つは、すでに経営者の中にある考え方や価値観を、深い対話によって取り出し、他人に渡せる形にすること。もうそこにあるのに、本人が言えないものを言えるようにすることです。

もう一つは、取り出したものを未来語に置き換えることです。

同じ価値観でも、それを表すことばが古いままでは、これからの時代に機能しません。ことばが古ければ、そこから生まれる行動も古くなる。だから私たちは、その方の考えをベースにしながら、新しいことばと概念を持ち込みます。


 


なぜ経営者本人が、自社の価値を言えないのか

 

実際に、自社の価値を表現しきれない経営者の方からご相談をいただきます。

 事業の内容は説明できる。製品も語れる。数字も出る。それなのに「この会社は何のために在るのか」を聞かれると、言葉が止まってしまう。

これはなぜ起こるのでしょうか。

経営がうまくできることと、それをうまくことばで表現できることは、別のことだからです。事業推進にたけていても、それを適切なことばで語れるかは別問題なのです。

 

理由は二つあります。

一つは、日々の事業活動があまりにも当たり前のことになっていることです。

私たちはあまりにも自然に歩いています。だから、どうやって歩いているかを聞かれると、説明できない。どうやって食べ物を飲み込んでいるかも、自然にやっているからこそ、ことばにするのが難しい。こんなふうに、当たり前になったものは、本人にとって空気のようなものです。空気を吸っていることを、人は表現しにくいのです。

 

もう一つは、ことばが古びていても簡単には気づけないこと。

 使っていることばが、いつ身についたものかを、人は意識しません。そのため、二十年前に有効だったことばを、二十年後も同じように使っていることがあります。当時それは正しかった。だからこそ、疑う理由がないのです。

 

つまり、言えないのは語彙力の問題ではありません。自分の外に立てないという問題です。

だから、他者との対話が要ります。

 


対話で起きること

たとえば、こう語る経営者がいたとします。

「若い人には、経験を積ませて教え込むことが大事だ」

この価値観の根には、次の世代を育てたいという願いがあります。それはすばらしいことです。ですが、問題は、それを表すことばの方です。

経験で教え込むという形を取るかぎり、経験のある側が上、ない側が下という関係が固定されます。若い人は指示を待つようになり、自分の見方を出さなくなる。芽が育つ前に摘まれ、組織からイノベーションが消えていきます。

これからの組織に必要なのは、経験のあるなしに関わらず目線を合わせ、互いに対話できる状態です。

そこで、ことばを置き換えます。

「若い人が、おのずと育つ環境をつくる」

願いは変わっていません。変わったのは、自分を育てる側に置くか、環境をつくる側に置くかという立ち位置です。この一語の変化で、明日からやることが変わります。誰に何を教えるかを考えていた人が、どんな場をつくるかを考えはじめます。

 

ことばが変わると、組織が変わる

実際に、この置き換えを経た会社があります。

教え込むことをやめ、目線を合わせて対話する形に変えていった結果、まず起きたのは、若い人が自分から聞きに行くようになったことでした。経験のある人の意見が必要なとき、社長にも直接コンタクトを取る。そういう会社になりました。

教える側と教わる側という関係の中では、わからないと言うことは能力の不足を認めることになります。だから誰も聞かない。わからないまま進み、後で問題になることもあるでしょう。一方、目線がそろうと、わからないと言うことは、ただの情報の共有に変わります。

 

そして、学ぶ方向が一方通行ではなくなりました。

デジタルの領域で強いのは年齢の若い人たちです。社長も先輩たちも、そこでは若い人に学ぶようになりました。

結果として、縦にも、横にも、斜めにも学び合う。そういう会社になっていきました。

この変化は、育成だけにとどまりません。問題が起きたときに、立場を越えて解決に向けて話すことができます。結果として、意思決定と課題解決のスピードが上がりました。

対話ができる組織は、人が育つ組織であり、同時に、速い組織でもあるということです。

 

その考えを、これからの時代に有効なことばに

新しいことばを持ち込むといっても、外部のフレームワークを無理やり当てはめるわけではありません。ベースになるのは、あくまでその方自身の考えです。

その考えを、これからの時代に有効なことばに翻訳します。新しい時代には、新しいことばが要ります。中身が良くても、古いことばのままでは、誰にも届かなくなるからです。

置き換えたことばは、行動様式を変えます。理念が額縁の中の文章で終わるか、日々の判断を動かすものになるかは、ここで決まります。

 

言語化は、一度きりの作業ではない

ことばができても、理念はまだ完成していません。

その時点で納得しているのは経営者だけで、社員にとっては、まだ他人の言葉です。社員一人ひとりが自分のことばで語り、日々の仕事で使えるようになって、はじめてブランドとして立ち上がります。

そして、ものの見方は放っておくと元に戻ります。だから対話の機会をつくり、対話を続けます。理念は続けることで保たれ、育ち、文化になります。

理念の言語化とは、文章をつくることではなく、判断の基準を更新し、共有できる状態にすることです。



フィロソフィ・コミュニケーションは、企業のフィロソフィをことばにする会社です。

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